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宮崎地方裁判所 昭和24年(ワ)99号 判決

原告 黒木長蔵 外七名

被告 合名会社宮崎農機製作所 外四名

主文

被告会社は原告黒木に対し金一万九千七百十八円九十銭、同村瀬に対し金九千七百七十二円九銭、同串間に対し金五千九百九円七十八銭、同多田に対し金一万四千九百十五円三十四銭、同津城に対し金一万七千百五十八円十六銭、同森に対し金九千六十八円、同石崎に対し金一万四百二十四円九十八銭及び同湯浅に対し金二万百四十九円八十銭を支払え。

原告等の被告会社に対するその余の請求及び被告等に対する請求は棄却する。

訴訟費用は被告会社の負担とする。

本判決は主文第一項に限り仮に執行することができる。

事実

原告等訴訟代理人は、

被告会社は原告黒木に対し金四万百五十二円八銭、同村瀬に対し金二万二十三円十四銭、同串間に対し金一万二千百九十七円十八銭、同多田に対し金三万六百二十三円十四銭、同津城に対し金二万四千百六十九円四十六銭、同森に対し金一万八千七百十四円八十銭、同石崎に対し金二万千五百十五円三十八銭及び同湯浅に対し金四万九百三十五円を各支払え。訴訟費用は被告会社の負担とする。その余の被告等は連帯して右各金員中被告会社の財産をもつて完済し得ない部分の金員を各原告に対し支払えとの判決並びに仮執行の宣言を求め、

その請求原因として、

原告黒木は昭和二十二年三月四日、同村瀬は同二十三年五月十三日、同串間は同年十一月二十三日、同多田は同二十四年一月五日、同津城は同二十三年一月十日、同森は同二十四年一月十二日、同石崎は同二十三年十月初旬及び同湯浅は同二十一年六月十六日いずれも被告会社に雇われ爾来その事業たる農機製作に従事し来つたところ、被告会社は昭和二十四年七月二十五日何等予告もなく原告等に対し解雇の通告をなし来りそれは即時解雇の効力を発生した。そこで原告等は被告会社に対し労働基準法並びに被告会社の就業規則に準拠して別紙請求金額明細書掲記の如く算出した解雇手当、休業手当、退職金、給料差額金、附加金即ち請求趣旨記載の金員の支払を求めたが、被告会社は目下破産状態に陥り金がないとの理由でこれに応じない。ところで被告会社を除くその余の被告等はいずれも合名会社たる被告会社の無限責任社員であるから本来被告会社の財産を以て会社債務を完済し得ないときは連帯してその弁済を為すべき責任があるところ、被告会社の財産を以て原告等に対する前叙債務を完済し得ないことは、前記理由によつて明かであるから被告等は少くとも右被告会社の完済し得ない部分についてはその弁済の責任を負うものである。よつて原告等は本訴請求に及んだと陳述し原告等の主張に反する被告会社及び被告等の答弁事実を否認した。

(立証省略)

被告会社及び被告等訴訟代理人は原告等の請求を棄却する、訴訟費用は原告等の負担とするとの判決を求め、

答弁として、

原告等の主張事実中原告等がその主張の日時にそれぞれ被告会社に入社しその主張の如き労務に従事していたこと及び被告等が原告主張の如く被告会社の無限責任社員であることは認めるがその余の事実は否認する。原告等のいう昭和二十四年七月二十五日附被告会社より原告等に対する通告は即時解雇のそれではなく解雇の予告をしたものであり、しかも被告会社は資材の入手難、経済界の逼迫による滞貨と金融の行きづまりからその事業の継続が不可能となつたので已むを得ず原告等を解雇するに至つたものであるからその責任を負うべきいわれはなく、本訴原告等の請求には応じ得ないと陳述した。

(立証省略)

理由

原告等がその主張の日時に被告会社に雇傭され、その主張の如き労務に従事していたことは当事者間争ない。しかるところ弁論の全趣旨から認められる昭和二十四年七月二十五日被告会社から原告等に対しなされた右労働契約関係に関する通告につき、原告等はそれは同日即時に原告等を解雇する旨の通告であり直ちにその旨の効力を生じたと主張し、被告会社及び被告等はそれは同年九月十日原告等を正式に解雇するにさきだちなされた解雇の予告であると抗争するので、まずこの点について考察する。

本件において被告会社が原告等に対し右通告をなすに際し労働基準法第二十条所定の予告期間を定めずまたはこれに代る平均賃金いわゆる予告手当を支払わず或は解雇理由について所轄労働基準監督署長の認定も受けていないことは弁論の全趣旨から認められるところであるが、同条が継続的法律関係たる労働契約関係において当事者対等の原則信義誠実の原則がその主軸をなしまた右契約関係の終了が賃金を以て生活を維持する労働者にとつて直ちに重大な結果を招来する虞があるのでその労働権ひいてその生存権を保障するために解雇に対し一の法律的規整を加えた趣旨に徴すれば、同条違反の解雇は、労働基準法の保障する労働者の待遇に関する基準に背反するものとして一応無効と解するを相当とする。従つて本件通告も原告等に対する即時解雇としての効力を直ちに発生するものとは認められない。

しかしまた一面同条所定の予告期間が労働者に対し従前通りの賃金によりその生活を維持しながら新に職を求めることができるよう予期しない解雇によつて直ちに被ることあるべき不利益を避けようとするものであり、また予告手当が労働者に対し右予告期間に代えて新に職を求めるための相当期間中従来同様の生活を保障せんとして一の金銭的補償をしようという点に考へ至るときは、たとへ即時解雇の通告としては直ちにこれに副う効力が認められないものであつてもその後に至りこれらの法の要求が充足された場合にはさきの通告は解雇の予告としての効力を具有するに至り右充足のときから解雇の効力を生ずるものと解しても強ち労働者に不利益を強いるものとは言えまいし、却つて使用者の経営意思との調和をはかる所以ともなるであろう。本件において成立に争ない甲第一号証の記載に証人柳田寛已(一回)の証言の一部を綜合考察すれば被告会社の意思はともかく原告等を解雇せんとするにあることは明かであるが、必ずしも原告等の主張するように即時解雇を固執せんとするものではなくて同二十四年九月十日を以て原告等を解雇するにあることを窺知し得るから(甲第二号証の九及び証人日高茂の証言中右に牴触するが如き部分は甲第一号証の記載に照し措信せず)右同日より法定の最短予告期間たる三十日を遙かに遡る同年七月二十五日の前記通告は右解雇の予告としての効力を有し原告等に対しては同年九月十日から解雇の効力を生ずるものと解するを相当とする。しかる以上被告会社は原告等に対し予告期間に代る予告手当を支払ういわれはないので別紙請求金額明細書中の解雇手当(同請求書備考(二)により前説示予告手当と同義なることは明かである)の請求は失当として排斥を免かれない。しかるところ証人日高茂の証言に弁論の全趣旨を綜合考察すれば、原告等が前段説示の如く七月二十五日の通告を受けた翌日以後同年九月十日解雇の効力の生ずるまでの期間従前の労務に従事しなかつたことが認められるから更に進んで前記明細書中休業手当の請求の当否について考察するに、労働基準法第二十六条は使用者の責に帰すべき事由による休業の場合において使用者がその休業期間中当該労働者に対し同法第十二条によつて算出した平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならないことを規定しているが、特別法社会法としての同法の精神に鑑み、また労働による賃金のみを唯一の生活の糧とする労働者に対しその最低生活の保障を期した同条の趣旨に徴すれば、先づ右に掲げた「使用者の責に帰すべき事由」とは、民法のいう「債権者の責に帰すべき事由」が債権者の故意又は過失或は信義誠実の原則から判断してこれらの責任条件と同視すべきものを意味して極めて狭義に解しているのとその範囲を異にし更に広く使用者の管理上経営上の責任換言すれば企業経営者として不可抗力を主張し得ないすべての場合を含み、また民法上賃金請求のために要求される労務の提供の如きは本条の休業手当の場合にはこれを必要としないものと解するのが相当である。本件において証人日高茂の証言によれば被告会社において残務要員を限定して原告等を就労させなかつたこと、また成立に争ない甲第二号証の九によれば被告会社に経営上の失陥あつたことを推認することができるが、原告等において前記通告当時就労を希望せず或は被告会社の生産経営に支障阻害を与えていたと見るべき証拠や被告会社の右休業状態を以て不可抗力と目すべき証拠はなく、しかも弁論の全趣旨から認められる被告会社が現に存続中なる事実を彼是綜合すれば前掲期間は使用者の責に帰すべき事由による休業期間と認むるを相当とするので被告会社は原告等に対し右期間中の法定の休業手当を支払うべき義務あるものといわなければならない。しかして証人柳田寛已(一回)の証言と前顕甲第二号証の九及び労働基準法の定むるところを綜合すれば前記明細書中の休業手当はその算出の基礎及び額においてそのところを得ておりこれを覆すべき何等の証拠もないので右手当の請求は相当として認容しなければならないし、また右挙用の証拠によれば右明細書に掲げた原告黒木同湯浅に対する退職金、同黒木、村瀬、多田及び津城に対する給料差額金も被告会社にその支払義務あることを認めるに充分で別にこれを覆すに足る証拠もないのでそれらの請求も相当として認容できる。しかしながら原告等が右明細書中において更に請求する附加金は労働基準法第百十四条の規定に照らし右退職金及び給料差額金には及ばないものと認むべきであるから、前に認容した休業手当と同一額の範囲においてのみその請求を相当として認容する。

かくて被告会社は結局

原告

休業手当

退職金

給料差額金

附加金

合計

黒木に

五、五九五・一六

五、二九九・五〇

三、二二九・〇八

五、五九五・一六

一九、七一八・九〇

村瀬に

三、七四八・七二

二、二七四・六五

三、七四八・七二

九、七七二・〇九

串間に

二、九五四・八九

二、九五四・八九

五、九〇九・七八

多田に

六、二〇七・六七

二、五〇〇・〇〇

六、二〇七・六七

一四、九一五・三四

津城に

五、一三七・六三

一、四八二・九〇

五、一三七・六三

一一、七五八・一六

森に

四、五三四・〇〇

四、五三四・〇〇

九、〇六八・〇〇

石崎に

五、二一二・四九

五、二一二・四九

一〇、四二四・九八

湯浅に

四、九七七・三〇

一〇、一九五・二〇

四、九七七・三〇

二〇、一四九・八〇

を支払う義務あるものといわなければならないから、被告会社に対する本訴原告等の請求はこの限度において相当として認容しその余は失当として排斥する。また被告等がいずれも合名会社たる被告会社の無限責任社員であることは当事者間に争ないところであるが前顕甲第二号証の九に徴するも未だ商法所定の如く被告会社の財産を以て会社債務を完済することができないものとは断じ難く他にかゝる事実の存することを認むるに足る証拠はないので、本訴原告等の被告等に対する、被告会社と連帯して本件債務中被告会社の財産を以て完済し得ない部分の弁済の責に任ずべしとする請求は失当として排斥を免れない。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十二条、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を適用して、主文の如く判決する。

(裁判官 高山豊秀 天野清治 淵上寿)

(別紙請求金額明細書省略)

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